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沼津簡易裁判所 事件番号不詳 判決

主文

被告人は無罪。

理由

本件起訴状の記載の要旨は

「一、被告人

本籍 沼津市城内字町方町一四番地

住所 同所

職業 料理店営業

木村政雄

明治三六年三月六日生

二、公訴事実

被告人木村政雄は肩書住居において風俗営業である料理店有限会社高砂食堂の代表社員として之を経営し木村多ミは同従業員であるが木村多ミにおいて昭和三四年一二月五日午後三時三〇分頃より一、二時間に亘り同家二階料理店営業所に一八才未満である田村弘美(当一六年)等約四〇名を客として立入らせたものである

三、罪名

風俗営業取締法違反

同法第三条第七条第二項第八条

昭和三四年静岡県風俗営業等取締法

施行条例第二九条第四号」

というにある。

ところで検察官は本件の第一回公判期日である昭和三五年六月二九日当公廷において「本件起訴状被告人欄の被告人の氏名『木村政雄』とあるは『有限会社高砂食堂代表社員木村政雄』の記載洩れによる誤りにつき追加訂正の申立をする。有限会社高砂食堂の所在地は木村政雄の住居と同じである。なお本件は公訴事実、適用罰条を綜合してみると法人を起訴したものであることは明らかである」と起訴状の訂正を申立てたうえ釈明をなし、被告人木村政雄の弁護人一杉藤平は「本件は木村政雄個人が起訴されたものであるから右訂正に対し異議の申立をする」と意見を述べた。

そこで、先ず、本件において何人が被告人であるかについて案ずるに、被告人の確定基準については講学上争いはあるが、起訴状に何人が被告人として表示されているか、実際に何人が被告人として挙動し又は取り扱われているか、検察官は何人を被告人として起訴する意思であつたかの三点を綜合して合理的に決定するのを相当とすると解せられるところ、本件記録に徴すると起訴状の被告人欄の表示は前記引用のとおりであり、昭和三五年一月二八日付検察官調書には本件の被疑者として木村政雄と記載され、起訴状謄本、弁護人選任又は請求に関する催告書及び被告人召喚状の各送達はいずれも木村政雄宛になされ、右催告書に対する回答及び弁護人の選任が木村政雄名義でなされていることが明らかであるから、検察官個人の内心的意思は格別、結局本件においては木村政雄個人が被告人であるといわねばならない。検察官は公訴事実、適用罰条を綜合すると法人を起訴したことが明らかであると釈明するけれども、公訴事実は主として犯罪の客観的面(罪体)に関するものであり、罰条はこれによつて公訴事実の法律的構成を明らかにするために起訴状に記載することとしているのであつて、これによつて被告人が何人であるかを決定しようとするのは本末転倒である。

次に、起訴状の被告人欄の訂正、遺脱記載事項の追加などは必ずしも許されないわけではないが、少くともそれは被告人の同一性を害しない範囲に限るものと解せられるところ、検察官の主張する前記の追加訂正並びに釈明はそれが認容されるならば本件の被告人が自然人である木村政雄から別人格の法人である有限会社高砂食堂に変更される結果となるから、かかる訂正、遺脱記載事項の追加は許さるべきではない。

そこで、本件全証拠を精査すると、有限会社高砂食堂についてはともかく、本件被告人である木村政雄が前記公訴事実の如き罪を犯したことを肯認するに足る証拠はなく、結局本件については犯罪の証明がないこととなるから、刑事訴訟法第三三六条に則り無罪の言渡をすべきである。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 丸尾武良)

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